介護をする人と介護を受ける人の気持ちって時々縺れて、素直になれなくて、お互い憎しみあってしまうときがありますね。ちょっと心が休まればと思い、ここに私が以前講演で聞いた谷口美重子さんという方のヘルパー時代の話を紹介したいと思います。
ある日谷口さんの講演会場に、一人のおばあさんが孫娘さんにつれられてやってきました。おばあさんは、苦労してたくさんの子供を育て、みんな立派な社会人になったのに、その子供が誰一人自分を大切にしない、と不満を言いました。孫娘は黙っておばあさんの愚痴を聞いていましたが、終わると、「谷口さん、おばあさんに仕事をさせて下さい。きっとおばあさんは何もすることががないから愚痴をいうんです」と涙ながらに言いました。でも半身不随のおばあさんに一体何ができるのだろうか? 谷口さんは思案している時ある話を思い出しました。広島県福山市のお寺のご住職の竹政さんの話です。
中風で寝ているおじいさんが愚痴ばかり言って困ると家族が言うので、住職はこのおじいさんに仕事をさせようと思って、おじいさんの家を訪ねた。
「おじいさん、ちょっと仕事ができるかいのぅ~?」
「仕事はできません。手も足もいう事を聞きません。一人で起きる事もできません」
「おじいさん、手や足はいう事を聞くまいが、口は言う事を聞くだろう?」
「はい、口は達者です。」
「それでは、ありがとう!、とゆうてみんさい。 家の人に世話をしてもらう時もだまっておるじゃろう?」
「そりゃ、だまっとる。 わしはこの家も建てた。 貯金もしておいてやった。 だから家のもんがわしの世話をするのは当たり前じゃ!」
「だが、一万円札が世話をするのではない。 人が世話をするのだから、その時ありがとう!っていいんさい。」
「そんな事はよういわん」
「言うてみんさい。自分の仕事だと思ってやってみんさい。広い世界が開けるで~。」
「じゃ、仕事と思ってやってみるかいの…。」
その日からおじいさんは口の仕事を始めたそうです。家族が帰ってくると、「今日はご苦労じゃなったな」とか、「暑かったじゃろ」「疲れただろ」、とおじいさんの方からねぎらいの声をかけたそうです。おじいさんの口の仕事が始まってから家の中がだんだん明るくなっていったという話です。
口の仕事も簡単ではなさそうだけど、行き詰ったときに試みてもいいかもしれませんね。